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イブラシル暦 684年 6月 /ブルブル連盟

 例えば目の前に10万シリーンが置いてあったとする。
 君なら、それをどうする?

 昨日までの私がそんな質問を受けたとしたら、「もって帰るに決まっている」と、未だ払い続けている先妻への慰謝料と養育費を華麗に返済する自分の姿を思い浮かべつつ答えただろう。
 だが、それは10万シリーンというものの存在感に触れたことがない人間の答えだった。
 実際にその金額に触れたものの反応は、もっと単純極まりない。驚愕による生理反応。主に下肢に対する脱力の衝撃。

 つまり、腰が抜けた。

「ハーシュ様の宝箱から出たお品物をお届けに参りました」
 少し緊張気味の可愛らしい、淡いピンクの髪の開錠師のお嬢さん─しかし、その開錠技術は私よりも格段に高そうだ─が、その預かり物を私の前に置いたのは、6月の昼下がりのことだった。

 見れば、古代技術の忘れ形見、銃。
 その名もずばり、エンシェントガンという種類の銃器で、娯楽都市アデンでよく出回っている品だ。 A-0旧型と改良の施されたA-1型にわかれ、いずれもハンドガン・タイプに比べると殺傷力こそ弱いが護身用として、趣味として、人気の高いモデルといえよう。
 この銃は若干装丁が異なるものの、おそらくA-1型に入るだろうか。ただ、これまで見かけたA-1と異なるところは、密閉された空間に収まっていたのか、サビがまったく浮いてない保存状態のよさと気品あるフォルム、鮮烈な古代の息吹が吹き抜ける華美な装飾。
 手に持つとずっしりと手首に響く鉄の重みが、銃としての実用性を教えてくれる。
 ただ、この時はまさか、この世でただ一つ現存する名銃A-2とはまったく予想もしていなかったのだが。

「わざわざありがとうございます。こちらの預かり物に関して、Death Bringerのハーシュ様からお話は伺っております。しかと私、ユギ キョウスケが預かりましたよ」
 用意していた受領証にサインをして、開錠師のお嬢さんにお渡しする。
 その受領証を確認して、彼女の表情が幾分緩んだ。歳相応の豊かな表情が伺える。
「よかった、これで心配ごとなくミルシアに向かえそうです」
「大森林南部には強盗も出没としていると言われますし、依頼を完遂できて何よりですね」
 開錠師としての単純な責任の言葉と思い、相槌を打つ。すると、彼女は悪戯っぽく両手を小さく振って。
「ええ、高額すぎて手足がブルブル。無事届けられてよかったです」
 にっこり。
 微笑まれて、改めて自分の手にある銃をよく見る。

 ああ、そうだ。
 この銃の新聞記事、見たことがあるぞ。
 オークションで参考価格136,505シリーンをたたき出した、稀代の逸品、エンシェントガンA-2!
 芸術性、実用性どれをとっても不足ない古代の逸品。
 もし、落として何か傷が入ったり故障したら、私が十人ぐらいで死ぬまでガレー船漕いでも、まだ足りない。
 ひぃ。

 石膏の像と化した私は、まったく申し訳ないことに、開錠師のくるみさんの見送りを座ったままにしてしまった。
それから、身体が動き出すまで三分。泥の中を泳ぐような身動きでようやく金庫にしまって、何とか一息をつく。
 預金高の十倍の価値というのは、途方もない。
 ダレだって、自分の能力を上回るものを受け持つと取り乱すだろう。特に私は自分で言うのもなんだが、小心者だ。隠密だって大好きだ。仲間の戦士の後ろが私の居場所だった。
 そういうわけで、エンシェントガンを処分して、その預金額の増加に私自身が慣れるまで、当分かかることになるだろう。
# by yugi-B | 2005-06-05 21:03 | 週報

イブラシル暦 684年 4月 /四十路連盟

 43歳。いわゆる四十路をまい進中の私だが、この仕事を始めるまではそれほどこの歳を意識したことはなかったと思う。
 だが、近頃は希望と覇気に満ちた若い冒険者たちと触れ合う機会が増えたことにより、翻って自分の歳を痛感する今日この頃。
 鮮烈な恒星の光に追いやられる明け方の衛星のようだ。
 若者たちの中にいるのは、どうも居心地が悪い。
 とはいえ、同じ世代の相手と一緒にいれば居心地がよいのかといえば、必ずしもそうではない。

 これは、今日は四十路仲間の来訪を受けての感想だ。
 彼の名は住吉三神。先月開錠した宝箱の依頼人で、リープルフォートを通過するついでに成果を直接取りにきたらしい。
 彼と私は、20年前に拠るところこそ違えどディアスとの戦いに参加した同志ということになる。そのときは私が23歳で、彼が21歳。私は盗賊としての大成に憧れ、彼は機械兵の力に酔うように、飛ぶように駆け抜けた戦役だった。
 それからの私は、年月に削られるように丸くなって現在にいたる。しかし、この旧友はまったく違う20年間を送っているようで、強い眼差しは20年前の面影そのままに、精悍さを増した表情と精神に張りを感じさせる物腰。未だ冒険者現役なのが、私とは根本的に違うところだ。
 正直、彼と向き合っていると、追い出された夢の国を見ているようで、少し辛いのだが。

 とはいえ、久しぶりの再会と彼特有のあっけらかんとした気性のおかげで、来訪自体は実に楽しい時間をすごすことができた。
 私も少し余裕が出てきたため、仕事の手を休めて雑談や思い出話にしばし耽る。
 ただ、住吉は持ち前の無邪気さで、ついつい地雷を踏む傾向があった。
 住吉はゴルダ鉱山でとれたゴルダの秘宝を見せてくれながら、余計なことを言った。
「お前、冒険者やめて後悔してないか?」
「何でそう思うんだ」
 憮然として聞き返す。ゴルダガーディアンとの遭遇の下りを、羨望の眼差しで聞き入っていたこと以外、心当たりはない。
 住吉は質問を質問で返されたことに、特にこだわらなかった。
「何でそう思ったといわれてもなあ…たぶん、俺は20年以上も冒険者にハマっているから、そう思ったんだろうな」
 のんびりした口調で律儀に言葉を紡いでいく。
「常に前に走らないと、落ち着かないというか…冒険者が町にいて別のことをしていても、無為な時を過ごしている気がする。俺はそんな自分に照らしあわせて、お前がそう思えたんだ。見たところ、世界有数の貯蓄高をかかえるとか、そういう気合の入れられる目標もないようだし」
 彼の実感からくるその言葉を、かつて同じ立場だった私は理解できないでもない。
 かつては、私も町にいる銀行屋を「せっかく冒険の舞台が目の前にあるのに、町に引きこもって何が楽しいのだろう」といぶかしんでいたこともある。少なくとも、住吉は今もそう考えているらしい。
 厄介なことに、その考えは前を進もうと努力する好ましい姿勢が生み出している。町にじっとしているより、ずっと楽しい冒険の日々。その渦中にいる住吉に、今の私の気持ちを言葉にしてもどこまで通じるかわからない。
 それでも、自分の立つところを彼に伝えるのが、私の誠意だと感じた。
「私が今楽しいと思うことをしているだけだよ。町にいるのは、別に誰かを助けたいといか、手元の資金が増えるのを喜ぶとか、人のために自分を犠牲にしているわけでもなくて…銀行業には銀行の楽しみってのがあって、私はその醍醐味を味わおうとしているんだ」
 そこまで口にして、自分の考えを発現することの難しさに微苦笑する。
「自分がこの世界の一つの歯車として、人と人の間に立ち、これまでまったく知らなかった領域にまでつながっていくというのが、なかなか悪い気分じゃない。立ち止まっているからこそ、人の冒険を純粋に楽しむこともできるし。まあ、急ぎ足で先の景色を楽しみに行く人が君だとすれば、歩く人の速度で脇の景色をじっくりと見ることが楽しいのが私。そんなとこかな」
「ははは。悪い。何を言いたいのか、さっぱりわからん」
 ひでぇ。
 素直な感想で私を封殺しておいて、住吉はぽつりとつぶやく。
「まあ、人には色んな価値観があるからな」
 実に凡庸かつ適切な言葉でこの話題を終わらせた住吉は、次なる話題─私がなぜ妻と子に捨てられたか─について、つまり私の第二の地雷について熱っぽく自らの所見を語りだした…

 とりあえず、この旧友を見返せるだけの生き方をしていきたい気もふつふつとわく、ユギ キョウスケ43歳の春のことであった。
# by yugi-B | 2005-06-05 21:03 | 週報

イブラシル暦 684年 3月 /もう一つの初仕事

 銀行開設をし、初仕事をこなした日を思い出す。
 その一日は仕事を終えて就寝間近になっても妙に高揚して、日記をつけながら気分が落ち着くのを待ったものだ。
 愚にもつかない言葉を吐き出して、文字を散りばめるのに飽きるまで。

 今日、めでたくも私の開錠屋としての活動が始まったわけだが、気分は高揚よりも安堵の方が強い。
 私に責任の所在はないとはいえ、依頼主をそれほどがっかりさせなかった開錠結果に、一安心したのだ。
 開錠自体には昔とった杵柄というか、経験はあるので特に不安はなかった。第一、昔の宝箱は派手な仕掛けがあって、自分の手際が悪い頃には緊張感を強いられた。私も駆け出しの頃は簡単なワナにかかって、額に矢を生やしていたものだ。
 とはいえ、錠前の構造は複雑化したようで、私のようなロートルの手では今の段階の宝箱で手一杯だろう。私が所持しているLV6の宝箱など、鍵を開けてみようという気にもならない。
 そこから先は、現役のシーフに任せよう。

 さて、滑り出しはまあまあの開錠だが、それに対して本業の銀行業もなかなかのもの。顧客数、取引高とも漸進を果たした。
 後は顧客の増加とともに、その個々の成長と足並みを揃えて私の仕事を遂行するのみだ。
 その成長を示す一定の物差しとなるのは、すでに定番コースとなったゴルダ・ガーディアンとの戦闘だろう。
 今週はまずコーザ・ノストラさんが挑んだが、土属性魔法のダメージを水の狂想曲で底上げするわかりやすい戦術が目を引く。ただ、前衛のブラインド・メイスさんはゴルダ・ガーディアンに愛されているのか、パワストのクリティカルクリーンヒット、連続攻撃、ロックバスターと続く華麗な全打撃を叩きつけられ、HP1600に関わらず脱落してしまう。ノーガード戦法ゆえの悲劇か。
 それに比べると、ダイアーズさんところは危なげない勝利。底上げされたスピードと、そのために安定したライトヒールが大きな要因だろう。
 天に煌めく破魔の六芒星さんの場合は、相手をスロウ、レッグショット、バッシュで鈍らせての封殺。魔法も大きなダメージを呼んだ。
 同じゴルダ・ガーディアン戦でもパーティの特色が自ずと反映されているのだね。

 一方では、先月遊びにきたアンリくんやホワイト・クロスフォードさんのように、マルティア大森林に歩を進める冒険者の姿も目立ち初め、気の早いところではすでにミルシアに到達したものもいるという。
 そういえば、ミルシアには名産物が存在するらしい。その名もミルシア・サンド。珍品好きの私としては、一度手にしてみたいものである。とりあえずミルシアの自然の恵みをふんわりパンではさんだサンドなのか、それともそこらの砂なのかということだけでもわかればうれしい。
 いずれにせよ、「廃れた享楽都市」アデンの名物「銃」よりかは、ずっと夢がもてる話だと思うし。

 一方では、ゼネトス=ロファールさんのパーティが大陸南端の古灯台に歩を進めている。
 何十年前のことになるだろう。当時発生していた黒い霧によってリープルフォートはアストローナ大陸と断たれて活気を失い、それに伴って古灯台はその役目を失っていた。
 だが、最近ではバルバシアの海路からの侵攻を見張る役目を新たに負って毎夜静かに炎を灯すという。

 私も、冒険者生活を止めて久しいが、この今の仕事を負うと決めた以上、か細くても光を絶やさぬようにしたいものだ。
# by yugi-B | 2005-06-05 21:02 | 週報

イブラシル暦 684年 2月 /顧客の来店

 ようやくこの町にも慣れ、銀行業も順調な船出を漕ぎ出そうとしている。
 宣伝の効果も上々のようだ。
 ぼつぼつとつきはじめた顧客に手ごたえを感じる。
 資金を運用することは信用があって成り立つものだけに、気を引き止めないといけない。

 さて、雑事に奔走しているうちに情勢はまた変化していったようだ。
 アストローナからイブラシル大陸へ移動を開始する冒険者たちの姿が目立ちはじめた。彼らはエレミア平原西の港から、ここリープルフォートを通って大陸の奥へと踏み込んでいく。
 とはいえ、混迷を極めるイブラシル大陸。そう簡単に冒険者を受け入れる寛容さはない。
 しばらくは、このリープルフォートが探索の拠点になるだろう。

 今日、訪問を受けたのは、そんな冒険者の一人だった。
 アンリ・レクベル。二十歳そこらのルシアール教会出身の僧侶で、私にとって数少ない顧客の一人だ。
 室内にも関わらず、簡易の法衣を着込んで暑がる気配もない。落ち着いた物腰と人当たりの良い表情を終始崩さず、一見して何を考えているのか少しわかりづらいところもあったが、口を開くと案外率直に物を言う。
「失礼ですが、しかしまあ、ボロい店舗ですね」
 この、執務室に入っての第一声のように。
「ほんとうに失礼ですが。ともかく、ようこそいらっしゃいました」
 悲しいことに失礼な奴には慣れているので、差し出された手を握り返す。そういえば、風羽は今頃ゴルダ鉱山の中か。きっと鉱山を踏破するころには、フェイルもうたれ強くなっているだろう。
「それで、アンリさんは今日はいかなるご用件で? ゴルダの秘宝を預けてもらえるのなら銀行冥利につきますが」
「よく知っていますね。残念ながら、ご期待にはそえませんが」
 軽い驚きを伴う丁寧な否定。
 彼らパーティがゴルダの探索を終了して、この町にきていることは把握している。
 他にはスタンド・バイ・ミーさんがゴルダの秘宝を今週手にしたらしいが、そちらは後方から奇襲した上でスロウと落とし穴にハメて、まとまったダメージを魔法で叩き込むという相手に二行動しかさせない少々アレな勝ちっぷりだった。
「実はですね」
 言うべき言葉を整理できたのか、アンリ青年はありがちな前置きを口にした。私は深く腰掛け、話を聞く姿勢をとる。
「私は教会からイブラシル大陸の調査…まあ、布教が可能かどうか調べて入るのですが」
 兵士によって領土を広げるのが国家なら、布教によって版図を広げるのが宗教。彼の任務も聖職者として当然のものだろう。青年は懐から一通の蜜蝋で封を施した手紙を取り出す。
「これはその今月分の報告書ですが、ユギさんのネットワークを使って教会に届けてくれませんか」
「ああ、全然かまいませんよ」
 造作もないことなので、私は快諾してみせる。すると、アンリはうれしげに頷き、どこに隠し持っていたのか同じような封筒をずらずらと机に並べはじめた。
「じゃあ、ここに1年分用意したので、一月に一通、この来月分から順番に届けてください」
 ええと。
「私も職業柄、世間の新しい知識を吸収しようと努力しておりますが、なんですか、最近の僧侶は予知能力があるのですか」
「いえいえ、面倒くさいので予測で書いておきました。全て『私はさんざん苦労して布教を試みたが無理でした』という内容をベースに、波乱万丈に富む幾多のエピソードを盛り込み、ドラマチックに愛とロマンが舞い踊る一大スペクタクルです」
 実に晴れやかに言い切った若い僧侶の顔を見て、言葉が何もでてこなった。
「はあ…」
 間抜けな私の相槌に、少し声のトーンを落とした青年のつぶやきが続いた。
「まあ、本当のところいいますと、私はこの大陸に火種を残して歩いていきたくはないのですよ」
 抽象的な言い方だが、なんとなくこの若い僧侶の言いたいこともわからないではない。アストローナと隔絶する前から、イブラシル大陸には彼らなりの信仰が深く根付いている。そこに異質を持ち込むのは、果たしてどんな結果になるのか。
 そんなわけで、私もこのアンリ青年のやらかす「サボリ」への共犯者になろうと思う。

 まあ、私自身がアンリに一杯食わされている可能性が高いが、わかっていて乗ってやるのも大人の余裕というものだろう。
# by yugi-B | 2005-06-05 21:01 | 週報

イブラシル暦 684年 1月 / リープルフォートの店舗にて

 イブラシル大陸への長い航海もようやく昨日終わった。
 渡航前に賃貸契約を結んでいた港町リープルフォートの貸し店舗を確認し、次に身体に染み付いた潮の匂いを洗い流して一息をつく。
 とはいえ、店舗に張り巡らされた蜘蛛の巣と積もった埃を見る限り、それもすぐに無駄となりそうだが。

 今はかろうじて掃除を終えた執務室に腰掛けて日誌を書いている。金庫室に金をかけすぎたせいだろう、質素極まりない素朴な机と椅子、書棚が並んだ狭い部屋。イスの形をした角材の塊に座っていると、ケツが痛くなってくる。
 応接室ぐらいには腰の沈むようなソファーをつけよう。そして普段はそこで仕事をしよう。そう心に決める。

 そうそう。今日、顧客に関してアストローナ大陸から朗報が一つ飛び込んできた。
 顧客のアンリ君が参加しているパーティがゴルダ鉱山の奥でゴルダ・ガーディアンという存在を見事打ち破ったらしい。ただ、鉱山の奥には未だ多くのゴルダ・ガーディアンが存在しているらしく、倒しつくす日はいつになるかはわからないともいうのだが。
 ともかく、そのゴルダ・ガーディアンという名を聞いて、懐かしさがこみ上げたのは私だけではないはずだ。私と同じ時期、ディアスとの戦争に奮闘した冒険者たちには聞きなじみがあるだろう。
 ゴルダ鉱山はディアス帝国の宰相だったリン=ハザートが機械兵を発見した場所であり、その存在と能力が彼の野心を現実化する手段となった。発見された機械兵はほとんど戦争に徴されたと聞くが、一部の機械兵は固有の使命(ガーディアンの場合は鉱山を守ること)を与えられており、戦争に使うことができず放置されたという。
 戦争の最終局面ではゴルダ鉱山を訪れたとある冒険者が一体のゴルダ・ガーディアンと交戦したものの、紅竜の出現と時を同じくしていたため、詳しい調査を行うことができなかった。

 20年の時を越えてよみがえったゴルダ・ガーディアンというわけだ。
 いや、機械兵が造られた年から考えると、もう何百年ぶりかは定かではない。
 私は、こういう突き詰めると気の遠くなることを考えることをけっこう好む。
 世界の広さ、星の遠さ、太陽の熱さ。
 果たして、それは人類のたどりつき、実感できるものなのだろうか。

 まあ、学者でもない自分がそんなことを考えても詮無きこと。
 それよりも日常の些事について、そろそろ結論を出さないといけない。
 いかにして金庫を一杯にするのか、ということだ。
 宝箱一個しか手元にない状況を考えると、星の距離より遠くに感じる難題だ。
 まずは信用を築いていくのが第一か。

 あとは私事になるが、私はこの新たな門出に際して一つ悩みがあった。
 銀行名がまだ決まっていたなかったのだ。
 ユギ銀行といえばわかりやすいかもしれないが、なんか自分の名がつくと気恥ずかしくて落ち着かない。かといって、言葉を選び出すセンスというものは、私には絶望的にかけているものだ。
 まあ、運命を決めるならこれだろう。
 裏にして無造作に並べたタロットカード、そのうち一枚を手に取り、ひっくりかえす。
 すると、そこには「吊るされた男(The Hanged man)」が一枚、微妙な面をしてこっちをのぞきこんでいた。

 …かくして、うちは「Hanged Bank」という銀行名を登記することになったのだが、知り合いに教えられて調べたところ、その意味は「絞首刑にされた銀行」ということらしい。
 どんな不正をやらかしたらそんなことに。
 早速、第一歩で躓いた感がひしひしとするが、明日はきっといいことがあるさ。
# by yugi-B | 2005-06-05 21:00 | 週報